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まるで小人になったみたい! 4,000年前の巨木の森に時間旅行。【三瓶小豆原埋没林/島根県大田市】

2019年9月23日

島根のほぼ中央にそびえる「三瓶山(さんべさん)」の麓で発見された、縄文時代の杉の巨木の林。三瓶山の火山活動によって埋もれ、約4,000年の時を経て発掘された。
直径1m超の巨木が地下の神秘的な空間に立ち並んでいる姿は、壮観の一言! 世界的にも類を見ない規模と保存状態の“埋没林”で、国の天然記念物に指定されている。

島根に縄文時代の森が出現! 歴史的にも地質学的にも貴重な、世界有数の”埋没林”。

「縄文時代の森を見る」――この言葉を耳にしたあなたは、一体どんな光景を思い浮かべるでしょうか?

ここ『三瓶小豆原埋没林(さんべあずきはら・まいぼつりん)』は、杉と広葉樹からなる約4,000年前の森です。最大で直径2mを超える木々が立ち並び、古代の日本の姿をうかがわせてくれます。

悠久の時に育まれた、巨木の群れ――それは現代の自然とは対照的なスケールで、見る人を圧倒します。神話の国・島根で連綿と築き上げられてきた、人と自然との歴史。それを無言で語ってくれる、貴重な天然記念物です。

三瓶山は約10万年前から7回の活動期を経た火山。
『三瓶小豆原埋没林』は、その最後の噴火活動によって埋もれた。縄文時代のままに根を張り、長い幹を残したままで直立した姿は、島根の古代を物語ってくれる。

島根 中部の旅行スポットとして人気の三瓶山。三瓶山。
噴火によって北側の斜面が大きく崩れ、それが土石流となって流れ出し、豊かな縄文の森を一瞬で地中に封じ込めた。
「国引き神話」にも登場する独立峰で、島根のみならず中国地方で最も新しい火山。『三瓶小豆原埋没林』を埋めた約4,000年前の噴火が、最新の活動と見られている。

このような“埋没林”は、日本国内に約40ヶ所確認されています。そして世界各地でも見つかっていますが、そのほとんどは根株だけが残ったもの。
『三瓶小豆原埋没林』のように、長さ10mを超える幹が林立しているものは極めて稀です。

少なくとも国内では、海からの飛び砂に覆われた青森県の「猿ヶ森ヒバ埋没林」を除いて例がなく、世界でも報告例がありません。

巨木の森を地中に埋もれさせた火山活動の凄まじさと、約4,000年もの時を経て姿を留めている不思議。まるで古代にタイムスリップしたかのような旅行が楽しめます。

縄文時代の木を見て、触れて、感じよう! 貴重な天然記念物を体感できる島根旅行。

『三瓶小豆原埋没林』の特徴は、近づくといまだに濃く漂ってくる木の香りと、悠久の歳月をかけて育ったことを示す無数の年輪です。
それらに注目しながら、2つの展示エリアを巡ってみましょう。

●縄文の森 発掘保存展示棟 (大展示棟)

『三瓶小豆原埋没林』を発掘されたままの姿で保存している、迫力満点のエリアです。直径30m・深さ13.5mの地下室で、らせん状の階段とスロープで降りていく構造は、古代への旅行のよう!

地上からは低い平屋の建物にしか見えず、屋上も緑化されているため、外から見ただけでは地下の広さは想像もつきません。気づかず通り過ぎてしまう人もいるので、気をつけましょう。

それでは、いよいよ縄文時代へタイムスリップ!
悠久の歴史と時間を巡る旅行が、あなたを待っています。

地下に降りるにつれ、目もくらむほどの巨大な木々が現れます。
高さ12m・根元の直径が2.5mにもなる巨大杉をはじめ、7本の立木と11本以上の流木を展示。立っている木の樹種はスギの巨木が3本と、トチノキ・カシ・ムクロジ・ケヤキです。

これらは床から約50cm下にある縄文時代の地盤に根を張ったままで保存されており、かつての姿をそのまま見せてくれます。
今はなだらかな山々からは想像もつかない、太古の島根の風景がうかがえます。

さらにコース内の「見学デッキ」からは、木に触れられるほどの近さで観察できます。樹皮を残したまま立つ巨木は、まるで生きているかのよう!

その足元には倒木もあり、これらは埋没林を埋めた土石流に流されて、この地まで運ばれてきました。発掘当時はさらに多くの倒木が折り重なっていたそうです。

こちらは断面に直接触れられる倒木。
間近で見られる年輪はとても緻密で、細い部分は幅1mmもありません。

これは『三瓶小豆原埋没林』の巨木たちが、暗い古代の森の中で永い時間をかけながら育っていったことを示しています。

これらの木々の樹齢は、計測できたもので最高650年ほど。樹種は杉が主で、トチノキ・カシ・ケヤキなどの広葉樹が若干混じっています。

木々が埋もれた年代は、“放射性炭素年代測定”という技術で測定。結果は3,500~3,700年前で、この測定法固有の誤差を補正すると、約4000年前という結論になりました。

●根株展示棟 (小展示棟)

こちらは三瓶山の自然を紹介する施設・『三瓶自然館サヒメル』に展示されている立木を発掘した場所です。
その“発掘抗”を立木を伐りだした後に保存して、残された根株を展示しています。

『根株展示棟』の扉をくぐると、地下に降りられるらせん階段が現れます。
約13メートルの深さは、上から覗くと目がくらみそう! 底には根元が二股に分かれた「根株」があり、切断面には年輪の中心が3個見られます。

というのも、この木は別の倒木の上で芽生えたものの、約400年をかけて育つうちに、土台となっていた倒木が朽ちてしまったのです。
そのため倒木の上に張っていた根が、1本の幹のように融合しました。
二股の部分は融合しきれなかった名残りです。

自然の不思議を感じられる、貴重な二股の根株。

『三瓶自然館サヒメル』にある、2本の立木と1つの根株。山の斜面に張り付くように根を張っていた根株で、太古の森に生きていた力強さが漂っている。

同じく『三瓶自然館サヒメル』にある、立木を切断した「輪切り標本」。443本もの年輪を持ち、それらの幅を測定した研究は“年輪年代法”という年代を測定する技術の基礎資料になっている。
『サヒメル』には他にも豊かな島根と三瓶山の自然が紹介されている。観光スポットも近くに多く、旅行に来たならぜひ立ち寄ってみたい。

地元・島根県大田市の教師が導いた歴史的な発見!

『三瓶小豆原埋没林』を発見したのは、ひとりの高校教師でした。

地元・大田市の「大田高校」などに勤め、「三瓶火山」の研究者でもあった松井整司氏。彼が1990年に水田の地下から見つかった巨木の写真を見て、
「三瓶山の地底には古代の木々が埋もれているかも知れない!」
と気づいたのです。

そのきっかけとなった写真は、1983年の水田工事のものでした。
立派な巨木が立った状態で埋もれている写真を見て、松井氏は、
「これらの木々は森のままの状態で埋もれているのかもしれない」
と直感。

そして定年退職後に調査を始め、1998年に『三瓶小豆原埋没林』を発見したのです。

こちらは掘り出された直後に切断された「埋もれ木」の写真。
切断面は生木と変わらない色でしたが、空気に触れると見る間に変色して黒っぽくなってしまったそうです。

こうして発見された『三瓶小豆原埋没林』は、縄文時代のタイムカプセルとして、世に知られるようになりました。世界的にも貴重な存在で、多くの研究者に注目されています。

発掘作業の様子。『三瓶自然館サヒメル』に展示するために、1999年から約2年かけて行われた。発掘抗の中にこつ然と現れた立木は、展示で見られる立木とはまた違った迫力!

高さ12m超の立木の発掘作業。
『三瓶小豆原埋没林』の中でも最長クラスで、建物の3~4階分に相当。それを傷つけずに掘り出すために、周囲を強固な鋼管を組み合わせた「連続地中壁」で囲って掘り進めた。

神話の国・島根の大自然を感じる旅行。古代から連綿と続く自然の営みに感動!

古代の壮大な自然と、歴史の驚異を目の当たりにできる『三瓶小豆原埋没林』。その敷地内には、ほかにも約2,000年前の地層から発見された「古代ハス」が咲く池や、ゲンジホタルが舞い飛ぶ小川などがあります。

「古代ハス」の花は6~7月頃、ゲンジボタルは6月の夜が見ごろ。島根の大自然を感じるために、旅行で訪れたなら、ぜひ立ち寄ってみましょう。

「古代ハス」の花。発見者の大賀一郎博士から大田市が譲り受けたハスの子孫で、市の天然記念物に指定されている。

敷地内を流れる「小豆原川」に舞うゲンジボタル。人工の灯りがなかった頃の風景をほうふつとさせる。

『三瓶小豆原埋没林』の近くにある「稚児滝」。
長い幹を多数残した『三瓶小豆原埋没林』が現代まで朽ちなかった最大の理由は、木々を埋もれさせた土砂が水に浸食されなかったため。
この「稚児滝」の硬い岩盤が川の流れをせき止めて、浸食を防いだ。そのため『三瓶小豆原埋没林』の発見者の松井氏は、この「稚児滝」を「埋没林の守り神」と呼んだ。

近くにも見どころがいっぱい! 「国立公園」の大自然を巡る旅行はいかが?

『三瓶小豆原埋没林』がある三瓶山は、その全域が「国立公園」に指定されています。広大なエリアにダイナミックな風景が目白押しで、それらを巡る旅行もおすすめです。

放牧牛が行き交う草原・「西の原」や、三瓶山の最後の噴火口と言われている「室ノ内(むろのうち)」。そして標高1,126mの主峰・「男三瓶山」など、爽快な展望の中で散策を楽しめます。

登山・キャンプ・高原グルメなど、アウトドアの楽しみがいっぱい!
疲れを癒してくれる温泉もあり、レンタカーやマイカーなどで巡ると便利です。
※三瓶山への登山ルートは6つあり

紅葉の「室ノ内」。「三瓶山」には複数の峰があり、その中心のくぼ地をこう呼んでいる。10月下旬~11月初旬には素晴らしい紅葉に彩られるので、秋の紅葉狩り旅行もおすすめ。

「西の原」の草原。三瓶山は雄大な草原に囲まれ、なだらかな斜面は古代の大噴火でできたカルデラの範囲と重なっている。
麓には温泉・ワイナリー・そば屋などがあり、グルメな癒し旅行もできる。

「三瓶山」の主峰・「男三瓶山」の山頂。
広々とした山頂からは360度の大展望が望め、北は日本海、南は中国山地、東は大山、西は石見銀山を生み出した「大江高山火山群」などを見渡せる。

『三瓶小豆原埋没林』の全景。「三瓶山」の北側の谷にあり、現在30本の立木が確認されている。未発掘の谷にはまだ100本以上の立木が埋もれていると見られ、そのスケールは未知!

- DATA
さんべ縄文の森ミュージアム
(三瓶小豆原埋没林)

HP:http://www.nature-sanbe.jp/azukihara/
住所:島根県大田市三瓶町多根ロ58-2

電話:0854-86-9500
営業時間:9:00~17:00(最終受付16:30)
休日:12月第1月曜~金曜までの5日間 / 年末年始
料金:大人300円、小中高生100円、幼児無料

取材協力・写真提供:さんべ縄文の森ミュージアム(三瓶小豆原埋没林)/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

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