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【山王寺の棚田/雲南市】古き良き山里の風情を守り伝える“日本の棚田百選”に選ばれた棚田。

2019年10月1日

標高300mの山腹に広がる風光明媚な棚田。約200枚の田んぼが連なって総面積19ヘクタールもの美観を描きだしている。米どころ・新潟県に匹敵するほど雪深い奥出雲にあり、26戸の農家によって守られている。

西日本随一の米どころ・奥出雲の山あいに広がる絶景の棚田!

豊かに実った稲穂が黄金色にそよぐ、日本の里山の秋。ですが、そんな昔懐かしい風景は徐々に失われつつあります。
しかし、こうした日本人の心のふるさとであり、大切な宝物でもある景観を守るために、地域一丸となって取り組んでいる場所もあります。

『山王寺の棚田(さんのうじのたなだ)』。
奥出雲の玄関口・雲南市(うんなんし)の山中にこつ然と現れる壮大な風景。階段状に連なる無数の棚田と、その向こうにそびえる中国山地の山並みが、どこまでも広がっています。

ここでは、春は瑞々しい水田とそれらに写る空、夏は青々と育った稲とそれを取り巻く新緑、そして秋には黄金に波打つ一面の稲穂が見られます。
冬こそ深い雪に閉ざされるものの、その森閑たる景色もまた妙(たえ)なる風情。日本人の“心のふるさと”そのものの光景に、いつでも出会えます。

秋には収穫を祝う「棚田祭り」が催され、その他の季節も新鮮な野菜等を直売する「青空市場」など、様々な活動が行われている。

奥出雲は“お米の西の横綱”と呼ばれる「仁多米(にたまい)」の産地で、その食味(しょくみ)は新潟の南魚沼産コシヒカリにも匹敵する。ここ『山王寺の棚田』のお米も、寒暖差の激しい気候による深い味わいが好評。

美しい風景が人々の暮らしを守る。

ふるさとの原風景が今も息づき、それを築き上げてきた人々の暮らしをも守り伝えられている『山王寺の棚田』。ですが、その存在意義は日々の食卓に欠かせないお米を作り出すのみではありません。

と言うのも、実は『山王寺の棚田』がある雲南市の「山王寺地区」は、地質がもろく地すべりの多い土地なのです。昭和33年に国が「地すべり等防止法」を施行した際には、島根県内で初めて「地すべり防止区域」に指定されたほどでした。

ですが、それほど地すべりが多く土も脆い場所でありがなら、その地すべりの崩土(ほうど)によってできた斜面を棚田にする、という人々の知恵によって、この見事な景観が生まれました。
さらに水源地や涵養(かんよう/雨水をゆっくり土に浸みこませて土砂崩れや地すべりを防ぐこと)の役割も果たすようになり、自然の脅威と共存する仕組みとして続いてきたのです。

『山王寺の棚田』の景観は、山の急斜面を里とした人々が、南向きの地形を巧みに利用して築き上げた。水利を工夫し、棚田という構造を生み出し、美味良質のお米が穫れるようになった。

見渡す限りの山肌に連なる棚田は、自然と人々との共生の証。

四季折々の表情を見せる、棚田の豊かな自然。

そんな『山王寺の棚田』は、そこに住まう山里の人々によって日々表情を変えていきます。稲作の作業と四季の移ろいによって、様々な景色を見せてくれるのです。

●春 ~ 目覚めと田植えの季節

『山王寺の棚田』では、田植えは4月に行われます。
まずは土を耕し、次に土をほぐした田んぼに水を引き入れていきます。そして土と水とを混ぜあわせ、苗が植えられるように平らにするのです(しろかき)。

こうしてできた水田に、いよいよ苗を植えていきます。
植えられたばかりの苗は細く弱々しい姿ですが、春の明るい陽射しを浴びてスクスク育っていきます。

そして春の早朝には、棚田の下方に雲海が広がることがあります。この絶景はぜひ上方にある「棚田展望台」から一望してみたいもの。遠くの山々が織りなす遠景とあいまって、いっそう棚田を美しく見せてくれます。

春の曙と雲海。標高300mの山里ならではの絶景!

稲が育つなら雑草も育つ。農薬を使わない『山王寺の棚田』では、草刈りの手間もひとしお。刈った草は燃やして堆肥にするなどして、無駄なくリサイクルする。

●夏 ~ 新緑と生育の季節

山々の緑が勢いを増していき、田んぼに植えられた苗もスクスク伸びていきます。初夏から盛夏にかけては、緑なす風景と明るい陽射しとのコントラストが、深山に満ちる力強い生命力を感じさせてくれます。

そして6月初旬~7月上旬にかけては、多くの雨が降り注ぎます。この梅雨の恵みが、奥出雲で美味しいお米が育つ秘訣のひとつ。雨や曇りの日に訪れても、しっとりとした柔らかな風情を見せてくれます。

晴れていても霧がわきあがり、雲が立ちのぼってまたたく間に雨が降り出すことも。豊かな慈雨が良質なお米を育てる。

●秋 ~ 実りと収穫の季節

9月に入ると、稲の穂先が膨らんで頭を重そうに垂れはじめます。田んぼ全体も徐々に黄金色に染まっていき、豊かな実りの季節が訪れます。吹き渡る風が涼感を増して、朝晩の冷え込みが進むと、いよいよ稲刈りと収穫のシーズン。
毎年11月の初旬に『山王寺の棚田』の収穫祭・「棚田祭り」が行われます。

棚田で穫れた「棚田舞(棚田米)」のおにぎりや、地元の野菜がたっぷり入った豚汁などが振舞われるお祭り。豊かな恵みを与えてくれる棚田に感謝して、多くの人々で賑わいます。

棚田の一部では稲の原種に近い「古代米」も栽培されている。

赤い穂先に黒い米が実る「古代米」。噛みしめるほどに深い味わいが広がる。

白米と古代米を合わせて炊くと、ほんのり淡い紫色になる。

空気が澄んで遠方が霞みにくい秋は、遥か遠くの山々まで見渡せる。展望を楽しむならこのシーズンがおすすめ。

●冬 ~ 眠りと静寂の季節

お米の収穫が終わると、『山王寺の棚田』は深い静寂に閉ざされます。11月の下旬頃には、すでに初雪の便りがちらほら。そして12月の終わり頃から2月の半ば頃にかけては、深く厚い雪が降り積もります。

一年を通じて降水量が多い奥出雲は、その雪解け水や雨水によって土地が豊かに潤されます。「西日本随一の米どころ」と呼ばれる理由で、やがて訪れる新年も豊かな実りを約束してくれます。

棚田で穫れた美味良質なお米を味わおう!

こうして大切に育てられたお米は、「山王寺 棚田舞(さんのうじ・たなだまい)」というブランド米として販売されています。
品種はふるさとの郷愁を呼び起こす、香ばしくも瑞々しいコシヒカリ。ご注文は下記の連絡先で受け付けています。

【棚田舞のご注文先】
山王寺本郷 棚田実行委員会 事務局 高木健次 氏
TEL&FAX (0854)43-5810

ご注文方法の詳細について:http://shimane-tanada.net/sannouji/?page_id=28

“日本の棚田百選”の棚田で育った貴重なお米を味わう!

昔ながらの「はで干し(天日干し)」でお米を乾燥させる農家も多く、稲の葉や茎の栄養分が実にたまるため、「機械乾燥」よりも味が濃くなる。

棚田とそれを作り出した“稲作文化”を学べる「田んぼの学校」。

さらに『山王寺の棚田』では、棚田と周囲の水路・ため池・里山などを舞台とした「「田んぼの学校」も開催しています。これは自然の恵みを日々の暮らしに生かすための教室で、季節ごとに様々なコースに参加できます。

たとえば5月の「田植えコース」、9月の「稲刈りコース」、11月初旬の「棚田祭り&収穫祭コース」に、田んぼとそこに集う生き物たちの観察など。
中でも人気が高い「棚田祭り&収穫祭コース」は、令和元年は11月3日(日)に開催されます。興味のある方は、ぜひ参加してみてください。

【2019年 田んぼの学校「棚田祭り&収穫祭コース」】
開催日:11月3日(日)
募集人数:約30家族(子ども連れ)総勢100名
お問い合わせ:0854-40-1053(雲南市 農林振興部 農林土木課)
※要参加費(道具代・昼食代・保険料等)
その他の「田んぼの学校」について:http://shimane-tanada.net/sannouji/?page_id=32

棚田とそこに息づく生き物たちや、稲作文化の実際に触れられる。

あなたも棚田の一員になれる! 「市民農園」で田んぼをレンタル。

また、『山王寺の棚田』では一部の区画を「市民農園」として貸し出しています。

・安全・安心なお米や蕎麦やサツマイモなどを育てたい
・棚田の景観を守る活動に協力したい

こういった方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

【山王寺の棚田「市民農園」について】
・オーナー応募資格 / 農業に関心があり、棚田の保全のために農作物を栽培したい方
※個人・家族・団体を問いません
※企業の社会貢献活動や、社員研修などの場としてもOK

・賃貸料 / 無料
※農薬の使用は不可
※周囲の草刈りなどの維持・管理作業を怠った場合は、1区画あたり5,000円の違約金が発生します

・お申し込み締切 / 毎年4月末日
・お申し込み、お問い合わせ先 / 0854-40-1053(雲南市 農林土木課)

爽快な自然と展望の中で、憧れの棚田を自ら耕してみよう!

ふるさとの原風景を残す『山王寺の棚田』は、こうして豊かな土壌や文化を育む基盤となってきました。土地と環境を守り、山里の人々の暮らしを支えてきた棚田は、今後も大切に守り伝えられていくことでしょう。

何も持たず、何も考えずにただこの風景に浸ってみたい。

- DATA
山王寺の棚田

HP:http://shimane-tanada.net/sannouji/
住所:島根県雲南市大東町山王寺588

観光のお問い合わせ:0854-40-1054(雲南市 観光振興課)
「田んぼの学校」のお問い合わせ:0852-32-4141(水土里ネット島根「田んぼの学校」係)
見学:無料

アクセス:
①松江自動車道「三刀屋木次」IC から 車で約30分
②山陰道「松江西」IC から 車で約30分
③JR木次線「出雲大東」駅から車で約20分
※県道24号線沿いに案内標識あり

取材協力・写真提供:雲南市 観光振興課/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

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