エポラコラムサイト

そばの美味しさは種と畑から決まる! 栽培から取り組むそば職人が「十割そば」の真髄を味あわせてくれるお店。【中国山地蕎麦工房ふなつ/島根県松江市】

2021年2月15日

店主の槻谷英人さんが自ら育てた蕎麦と、同じ基準で契約栽培された蕎麦だけで打つ、島根でも屈指の人気そば店!

つなぎや混ぜ物を一切使わない「十割そば」は、「ボソボソ・パサパサしている」といった「十割そば」のイメージをくつがえすモチモチ・しっとりとした食感。
「こんなに柔らかくてなめらかな『十割そば』は食べたことがない!」と、驚きの声が上がるほどです。

希少性で名高い奥出雲の在来種(その土地で昔から育てられてきた伝統的な品種)の「横田小そば」や「馬木(マキ)在来」を石臼挽きで自家製粉していて、その濃厚な味と香りには、地元にも根強いファンが多数。

育て方から打ち方まで極めた「出雲そば」で、食の幸せを実感させてくれます。
※「横田小そば」は収穫量が限られているため、時季によっては別の産地の在来種そばを使うこともあり

”日本三大そば処”の出雲で、その伝統を独自に極めたそば職人のお店!

出雲そば。
長野県の「戸隠そば」や岩手県の「わんこそば」と並んで、“日本3大そば”と呼ばれている島根の郷土料理です。

その特徴は、蕎麦の実の殻や甘皮まで挽きこんだ黒っぽい麺。
そのため蕎麦本来の風味がしっかり生きていて、野趣あふれる力強い味わいです。

そんな‟出雲そば”の伝統を守りつつも、「いかに蕎麦本来の美味しさを引き出すか」に心血を注いでいるのが、ここ『中国山地蕎麦工房ふなつ』。

島根の松江で、そば一筋数十年の槻谷英人さんとそのご家族が、極上の手打ちそばを味あわせてくれます。

『ふなつ』のそば作りとそば打ちの手法は、すべてが「いかに蕎麦本来の味を引き出すか」に注力したもの。
長年の試行錯誤の末に、‟モチモチ・しっとり”とした今までにない「十割そば」を実現させた。

原料の蕎麦は奥出雲産を中心に、槻谷さん、または槻谷さんと同様の栽培方法を長年 実践している人々が育てたもの。
味と香りが濃厚な「在来種」で、絶滅寸前だったところを行政が中心に復活させた「横田小そば」・「馬木在来」など、希少で個性豊かな品種ばかり! (槻谷さんのお気に入りは「馬木在来」だそう)

さらに収穫後は、冷蔵で鮮度を保ちながら、その日に打つ分だけを石臼挽きで自家製粉している。

一般的な蕎麦は育てやすいように種を選別して、品種改良されている(改良品種/「信濃1号」など)。
それに対して「在来種」の蕎麦は、小粒で独特のデンプンとタンパク質のバランスがある。
その美味しさが知られてきて、「在来種」の見直しと普及が進んでいる。

『ふなつ』のそばは、殻がついたままの実を石臼で粗挽きしている。
この「全粒粉」には、蕎麦本来の栄養素がギッシリ詰まっているので味も香りも濃厚!
これに「丸抜き(殻を外した甘皮付きの実を挽いた粉)」を混ぜることもあって、いずれも甘皮や胚芽の粒が挽きこまれたプチプチとした食感が楽しい。

なのにモチモチ・滑らかという不思議な味わいで、普通の白っぽくて淡白な味わいのそばとは明らかに違う。

加水は湧水を4℃に冷やして、そばの麺を引き締めている。
つゆは割子・ざる・釜あげなどの調理方法によって、本枯れ節・鯖節・昆布・椎茸などを組み合わせた4種類を作り分け。

とにかく手間ひまをかけて、最高のコンディションと味わいのそばを食べさせてくれる。

手間ひまかけて心をこめて、「more than best」な出雲そばを提供!

『ふなつ』のそばは、そばの美味しさを余すところなく味わえる「十割そば」。
小麦粉などの「つなぎ」を一切入れずにそば粉だけで打った麺で、最近増えてはいるものの、まだまだ珍しい存在です。

その理由は、そば粉だけで打った麺は切れやすいため。
そのため小麦粉などの「つなぎ」を混ぜた「二八そば」が主流で、「十割そば」だけを出すお店はいまだに少数派です。

それだけでも貴重なのに、さらに『ふなつ』は麺を3種類に打ち分けています。

・ザルそば用
・割子そば用
・温かいそば用

と、それぞれの調理方法に合うように様々な性質のそば粉を挽き分けています。
これは「手塩にかけて育てた蕎麦を、最高の美味しさで食べてもらいたい」という心意気のたまもの。幾重にも手間ひまをかけて、在来種の蕎麦の実力を引き出しています。

さらに『ふなつ』の店内には、その日に出すそばの産地や、作った人々を紹介する紙が貼られている。
槻谷さんも自ら畑で蕎麦を育てていて、まさに‟顔が見える食べ物”!

普通のそばにはない食感に、
「まるで穀物みたいなおそばですね」
「体にとても良さそうな味がする」
と、よく言われるそう。

出雲そばに多い「十割そば」を食べ慣れている島根県人にも、
「こんなそばは初めて食べた!」
と驚かれるという食感は、「ボソボソ・パサパサしている」という「十割そば」のイメージをくつがえしてくれる。

美味しさの秘密は畑でのそば作りから! 鮮度を落とさず蕎麦本来の味を引き出す。

そんな『ふなつ』のそばの美味しさの秘密は、収穫直後の玄ソバ(殻がついたそばの実)から徹底しているという「鮮度管理」です。
収穫したての新鮮さを保って酸化や乾燥を防ぐために、細心の注意を払っています。

「普通の『十割そば』がボソボソ・パサパサしがちなのは、玄ソバの管理に問題があるのでは、と考えています」
と、店主の槻谷英人さんは語ります。

「玄ソバの質が良くないと、どんなに打ち方にこだわっても良いそばは打てません。そのため冷蔵庫が無かった時代には、夏の暑さでそばの実が傷んでしまうため、松江のそば屋は夏はそばを出しませんでした」

さらにそば粉の挽き方と打ち方も重要で、これを長年の勘と手技で最良の加減になるように調整。
そして畑での土作りと種まきから取り組んだりと、とことん手間と情熱を注いでいます。

奥出雲町にある槻谷さんの畑(右側手前)。
「横田小そば」発祥の地で、その気候と風土に合った「馬木在来」を自ら育てている。

「出雲そば」の真髄がここに! 全国のそば通が食べに来るメニュー。

こうして供される『ふなつ』のそばは、一度食べると忘れられない味!
中でも人気のメニューをご紹介しましょう。

●千鳥割子 1000円 (定番メニュー)

出雲そば伝統の、三段重ねの丸い器で出される「割子そば」です。
※写真のお重は撮影のために広げています

具は「とろろ」、「錦糸卵・しいたけ・アナゴ・かまぼこ」、「うずら卵」の三種類で、一段ごとに違う味わいが楽しめます。

つゆを直にかけて具やそばと混ぜながら食べるのが、出雲流。
他の地域にはない食べ方で、出雲の食文化を実感できます。

●まいたけ天ぷらそば 980円 (平日限定)

粗挽きの全粒粉と、「丸抜き(殻を外した甘皮付きの実を挽いた粉)」を合わせた、少し細めの麺で味わう温かいそば。

そばのコシがしっかりしているため、奥出雲産の舞茸の濃厚な風味と、濃い目のしっかりとしたつゆとのハーモニーを堪能できます。

●そば屋の「たまご焼き」 450円 (定番メニュー)

「割子そば」のダシのみで味付けした、おそば屋さんならではの卵焼き。
来店するたびに注文する人もいるほどで、おそばにピッタリの味わいです。

ほど良い焼き目がついた卵の香ばしさと、ダシのこっくりとした味わいとのマッチングが絶妙!
ぜひ注文したいサイドメニューです。

その他にも、多数のメニューがあって季節限定のメニューもあります。

例えば出雲の冬の風物詩・「あつもりそば」は、粗挽きの全粒粉だけで打った力強い風味のそばに、とろろ芋と生玉子が入ったアツアツで通向けの一品。

そして新そばが熟成されて一番美味しくなるという1月~2月にだけ登場するメニューもあって、何度も通ってすべて食べ尽くしたくなります。

こちらはすべてのメニューに付く「そばの揚げもち」。
蕎麦粉と水だけで練り上げた、そばの美味しさをじっくり味わえる一品。
厳選した新鮮な油で揚げているため、揚げ物なのにアッサリ!

こちらもすべてのメニューに付く「そばぜんざい」。
小豆のぜんざいの上に、そばで作った「そばがき」を載せた‟オープンそば団子”のような一品。
ぜんざいは小豆を毎日炊き上げているので、とても優しい味わい。

蕎麦の栄養分がたっぷり染み出た「そば湯」。
『ふなつ』のそばの美味しさを余すところなく味わいたいなら、外せない〆(しめ)!
普通のそば湯とはひと味もふた味も違うしっかりとした旨みが、「在来種」のそばの実力を実感させてくれる。

そばの味は畑から決まる! そば職人が種まきと土作りから取り組む理由。

昔ながらの本物のそば=「在来種」を、めくるめく料理で味あわせてくれる『ふなつ』。
全国のそば通を魅了し続けるその味は、畑作りと種まきから始まります。

「よく『蕎麦はやせた土地が向いている』と言われますが、私はそれは違うのではないか、と考えています」
と、店主の槻谷さん。
どうやら一般的なそばの通説には、大きな誤りがあるようです。

「美味しい蕎麦を作るには、適度に肥料をやって世話もきちんとしてと、『土作り』と栽培の『管理』がとても大事なんです。
昔はこうした施肥(せひ/肥料をやること)などの『土作り』がされていませんでした。
なのでそばにシットリ感を出すために、畑から手をかけて良い蕎麦を作れば、そば粉十割で打っても十分にモチモチした美味しいそばになります」

こうした発見から、「そば屋の店主」が自ら種をまき、粉に挽いて、そばを打つように。
全ての工程と手技が、槻谷さん自らが編み出したオリジナルなのです。

「最初は面倒でしたが、店ではそばを打って外では農作業をする、という切り替えが次第に心地良くなりました。
そんな自然との一体感や楽しさが、そばの味にも出ているのかもしれませんね」

種まきからそば打ちまで、すべてを一貫させたそば作り。
それらを意識して実践しているからこその、名店の味です。

「もっとも全てにおいて‟完璧”はありえませんので、日々試行錯誤して研鑽を積んでいます。
ですので『誰が召し上がっても絶対に美味しいおそばです』とは言えませんが、その分お客さんが食べてどう感じてくださるのかが楽しみです。
日々、その時々に出せる最良の味を目指しているので、ぜひ何度もおいでください」
と、槻谷さんは語ります。

『ふなつ』の開店は1971年(昭和46年)で、お父様が始めたお店を受け継いだ英人さんは、現在73歳。
奥様のきみ枝さんと、跡継ぎの長男・有祐さんの3人で『ふなつ』を営んでいます。

「息子は店に立つようになって今年で4年目ですが、私の手技をほぼ受け継いで、修業は一通り完了しました。私はそろそろ引退を考えていますが、現在のメニューや味は息子が引き継いでいく予定です」

‟出雲そば”の名店は、将来も盤石。
その味を求め続ける多くの人々を、これからも変わらずもてなしてくれるでしょう。

これほど真摯にそば作りに取り組む槻谷さんが、自信をもってお客さんに出せるクオリティの蕎麦は量の確保が大変!
そのため毎日お店に出せる量は限られている。
だいたい13:30頃には無くなって閉店になるので、なるべく早めに訪れよう。

毎年10月末頃に新そばを収穫して、真空パックと冷蔵保存で鮮度を保っている。
そして毎日打つ分だけを冷蔵庫から出して、石臼挽きで製粉。
昔は「そばは足がはやい(酸化しやすくて味が落ちるのが早い)」と言われていたけど、この『ふなつ』ならではの管理で、約2年間は美味しいそばを打てるそう。

収穫したての新そばももちろん美味しいけれど、奥様のきみ枝さん曰く、
「ほど良く熟成された1月~2月頃のそばが一番美味しいと思います」
とのこと。

まるで木の実のような香ばしさと風味になるので、冬の『ふなつ』にぜひ訪れてみよう!

- DATA
中国山地蕎麦工房ふなつ

HP:なし
住所:島根県松江市中原町117-6

電話:0852-22-2361

営業時間:11:00~15:00
※そばが無くなり次第、閉店(およそ13:30頃)

休日:月曜・新年・GW・お盆
※12月31日は14時頃に閉店

客単価目安:1,000円~

取材協力・写真提供:奥出雲町農業振興課・株式会社クロレラサプライ/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

Related Posts
関連記事

メニュー
epauler公式ショップ