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【企画展「柳宗理デザイン 美との対話」/島根県立美術館】戦後日本のプロダクトデザインを確立し、その発展に寄与した功労者の全貌に迫る展覧会。

2020年1月25日

日本を代表するプロダクト(製品)デザイナーとして知られる柳宗理(やなぎ・そうり)氏の、幅広いデザインワークスを網羅した展覧会。日本の手仕事に深い敬意を示しつつ、その伝統をさらなる高みへと昇華した功績がわかる。

山陰ゆかりの世界的デザイナーの軌跡。

丁寧に、朴訥(ぼくとつ)に。
日々の暮らしに欠かせない「道具」を、日本人はたゆまぬ工夫とそれによって高められてきた技術によって、無数に作り出してきました。

そんな人々の暮らしに欠かせない「手仕事による道具」を、機能性から生まれた美を放つ「民藝(みんげい)」と定義したのが、思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし)氏。
そして、その柳宗悦氏と日本が世界に誇る声楽家・柳兼子氏の間に生まれたのが、本展の主役である柳宗理氏です。

日本を代表するプロダクトデザイナーとして知られ、身近な家庭用品からグラフィックデザインに至るまで、あまたの分野で膨大なデザインを創出。
さらに『日本民藝館』の館長を務め、父が愛した「民藝」の発展にも尽力した氏の人生を、600点以上もの展示物で振り返る圧巻の展覧会です。

【柳宗理デザイン 美との対話】
会 場 : 島根県立美術館 (松江市)
会 期 : 2020年1月24日(金)~3月23日(月)
観覧料 : 一般 1,000円・大学生 600円・小中高生 300円
※いずれも当日券料金/前売り券・各種割引あり

石膏ロクロで作業する柳宗理氏 (©YANAGI DESIGN OFFICE)

無名の職人たちが作る「日常の道具」は、自然で素朴な美しさを帯びる。それを「用の美」と呼んで愛した父と同じく、自らの作品にも反映させた。
《バタフライスツール 初期型》 天童木工 1956年 柳工業デザイン研究会蔵

家具・食器・キッチンツールなどの「製品」をはじめ、グラフィックデザインなどの写真パネルや模型などを幅広く展示。
《松村硬質陶器N型シリーズ》 松村硬質陶器 1952年頃 柳工業デザイン研究会蔵

《東名高速道路 中央分離帯における防音壁》 日本道路公団 1980年(写真展示)

柳宗理デザインの真髄に触れる。

世界的にも高い評価を受けている柳宗理氏は、1915年(大正4年)に誕生しました。そして終戦後にデザインの仕事を始め、『柳工業デザイン研究会』を設立。日本のプロダクトデザインの黎明(れいめい)期に多大な貢献を果たしました。

柳氏の仕事は、食器や家具といった身近な「道具」からグラフィックデザイン・東京オリンピックの聖火トーチ・高速道路の防音壁に至るまで、実に多岐に渡ります。
たぐいまれな美的センスと、どこまでも「手仕事」にこだわった姿勢から生み出されたデザインは、一貫して父・柳宗悦氏が掲げた「用の美」を息づかせています。

さらに山陰における「民藝運動」とも深く関わりを持ち、各地の窯元で作品を制作するなど、島根と鳥取にも多くの足跡を残しています。
そんな山陰ゆかりの柳氏の作品や、自身が蒐集した貴重なコレクションも展示しています。

《キャセロール》 出西窯(島根県出雲市) 1960年 柳工業デザイン研究会蔵

《徳利》 牛ノ戸窯(鳥取県鳥取市) 1968年 柳工業デザイン研究会蔵

《黒土瓶》 京都五条坂窯1958年 柳工業デザイン研究会蔵

1958年に島根県安来市出身の陶芸作家・河井寬次郎氏の窯で《黒土瓶》を作り、その思い入れの深い作品を島根県出雲市の『出西窯(しゅっさいがま)』で復刻。そして父・宗悦氏の同士であり、鳥取県の「民藝運動」を牽引(けんいん)した吉田璋也氏との交友から、鳥取市の『牛ノ戸窯』でも陶器を制作しました。

その後2000年代には、鳥取市の『因州・中井窯』と出雲の『出西窯』で自らがディレクションした陶器シリーズを製造。こうした山陰との深い縁も必見です。

《白磁器シリーズ 白磁土瓶》 岐阜県陶磁器試験所 1956年 柳工業デザイン研究会蔵

「美」と対話し続けた歴史をたどる、充実の展示。

企画展 『柳宗理デザイン 美との対話』は、以下の4パートから成っています。

1.柳宗理の歩み
生い立ちからデザイナーとして活躍し始めるまでの、柳氏の人生の歩みを紹介。併せて代表的な作品も展示。

2.柳宗理の世界
幅広いデザイン分野に実績を残した柳氏のデザインの全貌を紹介。

3.柳宗理と山陰
柳氏と山陰の民藝との深い関わりと、氏が与えた影響などを紹介。

4.柳宗理の見た世界
柳氏が集めた日本と世界の民藝品や、世界各地の旅の写真などを公開。

各展示ごとに示される柳氏の仕事は、いずれも単なる「製品」や「道具」を超えた美を見せてくれます。
デザイン性と機能性を両立し、それらを真摯(しんし)に追求し続けた姿勢から生まれた「用の美」は、時代が移り変わっても変わらず人々を魅了し続けています。

その造形的感覚と「手」によって生み出されたデザインの「美」は、現在のプロダクトデザインにも大きな影響を与えている。
《#1250 ステンレスカトラリーシリーズ》 佐藤商事 1974年 柳工業デザイン研究会蔵

《曲木椅子、曲木テーブル》 秋田木工 1967年 柳工業デザイン研究会蔵

《レコードブレーヤー》 日本コロムビア 1952年 柳工業デザイン研究会蔵

豊富なイベントにも注目。さらに深く柳氏の軌跡を知ろう。

そして本展会期中の週末には、柳氏ゆかりの人々による講演会や、ギャラリートーク、ワークショップなどを随時開催。
柳氏の人となりや、作品へのこだわり、デザインの真髄などを、より詳しく知ることができます。

中でも3月22日(日)に開催される参加型の「デザイン演習」は、柳氏が大切にしていた「手で考えるデザイン」について、キッチン関連用品などを題材に、実作品や模型に即した講座で学ぶことができます。
柳氏の世界により深く触れてみたいファンや、デザインに興味がある方はぜひ参加してみましょう。
※デザイン演習とワークショップは要・事前申し込み(ホームページ参照)

さらに併設のミュージアムショップやリストランテでも、展覧会に合わせた企画を実施。ここでしか手に入らないグッズや特別メニューなどが登場するので、これらも見逃さないようにしましょう。

■ミュージアムショップ
『柳宗理デザイン 美との対話』限定グッズや、柳氏デザインのカトラリーなどを販売。

■リストランテ ヴェッキオロッソ
特別メニュー「おぼれバニラ(バニラアイス+エスプレッソ)」 500円 (柳氏デザインの食器で提供)

《エレファントスツール》 コトブキ 1954年 柳工業デザイン研究会蔵

《東京オリンピック トーチホルダー》 東京オリンピック実行委員会 1964年 柳工業デザイン研究会蔵

同時期に開催のコレクション展「河井寬次郎と民藝運動」にも注目!

また、本展と平行して柳宗理氏の父・柳宗悦氏らと共に「民藝運動」を起こした安来市出身の陶芸家・河井寬次郎と、島根の民藝作家たちの作品も展示されています。

『島根県立美術館』が所蔵するコレクション展で、柳宗理氏と柳宗悦氏が愛した「民藝」の世界により深く触れることができます。

【コレクション展 河井寬次郎と民藝運動】
会 期 : 2019年10月16日(水)~2020年3月30日(月)
観覧料 : 一般 300円・大学生 200円・高校生以下 無料
※企画展と同日に観覧の場合は半額
※団体料金・各種割引あり
※展示替えにより、画像の作品が展示されていない場合があります

河井寬次郎 《呉須辰砂草絵壷》 1938(昭和13)年頃 島根県立美術館蔵

- DATA
企画展 「柳宗理デザイン 美との対話」

HP:https://www.shimane-art-museum.jp/exhibition/2020/01/038373.html
会期:2020年1月24日(金)~3月23日(月)


コレクション展 「河井寬次郎と民藝運動」

HP:https://www.shimane-art-museum.jp/exhibition/collection/
会期:2019年10月16日(水)~2020年3月30日(月)


島根県立美術館

HP:https://www.shimane-art-museum.jp/
住所:島根県松江市袖師町1-5

電話:0852-55-4700

開館時間:
[1月・2月] 10:00~18:30(展示室への入場は18:00まで)
[3月] 10:00~日没後30分(展示室への入場は日没時刻まで)
休館日:火曜日(ただし2月11日は開館、翌12日(水)は休館)

観覧料:
企画展のみ(当日券) 1,000円
企画展・コレクション展セット(当日券) 1,150円
企画展・コレクション展セット(前売券) 900円
※いずれも一般料金(学生割引・身障者割引・団体割引あり)

取材協力・写真提供:島根県立美術館/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

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